今更きけない環境印刷の基礎知識
環境に配慮した印刷技術や認証、実践方法について解説。SDGsや炭素税に対応するための印刷業界の最新動向と事例を紹介します。
環境印刷とは
環境印刷(グリーンプリンティング)とは、従来の印刷工程で発生する環境負荷を低減するための技術や取り組みの総称です。原材料の調達から印刷工程、廃棄・リサイクルまでのライフサイクル全体で環境影響を最小化することを目指します。
2025年の炭素税導入を控え、印刷業界でも環境対応は経営課題となっています。本ページでは、今さら人には聞けない環境印刷の基礎から最新動向までを解説します。
なぜ今、環境印刷が重要なのか
2025年からの炭素税導入や、VOC(揮発性有機化合物)規制の強化など、印刷業界を取り巻く環境規制は年々厳しくなっています。環境対応は法令遵守の観点からも必須となっています。
SDGsへの取り組みを進める企業からは、印刷物についても環境配慮を求められるケースが増加しています。環境印刷対応は、顧客獲得・維持のための差別化要因となっています。
印刷業は紙資源の大量消費や化学物質の使用など、環境への影響が大きい産業です。環境負荷を低減することは、企業の社会的責任(CSR)を果たす上で重要な取り組みとなります。
環境印刷の技術と取り組み
環境配慮型資材
FSC認証紙
適切に管理された森林から生産された紙であることを保証する国際的な認証制度。トレーサビリティが確保され、違法伐採材の使用を防止します。
植物油インキ
石油系溶剤の一部を植物油に置き換えたインキ。VOC排出量の削減や生分解性の向上が期待できます。ノンVOCインキやライスインキなど、さらに環境負荷の低いインキも開発されています。
再生紙
古紙パルプを一定割合含む紙。古紙パルプ配合率が高いほど環境負荷が低減されますが、品質とのバランスが重要です。近年は高白色度の再生紙も増えています。
非木材紙
竹、バガス(サトウキビの搾りかす)、麻などの非木材繊維から作られた紙。森林資源の保全に貢献します。バンブーペーパーなどが代表的です。
環境印刷の事例
上場企業A社の統合報告書では、FSC認証紙と植物油インキを使用し、水なし印刷方式で印刷。さらにカーボンオフセットを実施し、報告書自体がESG活動の一環となっています。
化粧品メーカーB社では、商品パッケージに生分解性素材を採用し、水性インキで印刷。プラスチック使用量を80%削減し、廃棄時の環境負荷も大幅に低減しています。
家具メーカーC社では、従来の大量印刷から脱却し、デジタル印刷による小ロット・多品種生産に切り替え。在庫廃棄を90%削減し、最新情報の提供も可能になりました。
環境印刷の導入ステップ
1現状分析と目標設定
現在の印刷物の環境負荷を分析し、改善目標を設定します。CO2排出量、VOC排出量、廃棄物量などの指標を用いて定量的に評価することが重要です。
- 印刷物の種類と数量の把握
- 現在の資材と印刷方式の確認
- 環境負荷の高い工程の特定
- 短期・中期・長期の改善目標設定
2環境配慮型資材の選定
FSC認証紙や植物油インキなど、環境配慮型の資材を選定します。コスト、品質、環境性能のバランスを考慮することが重要です。
- 用途に適した環境配慮型紙の選定
- 植物油インキや水性インキの検討
- サンプル印刷による品質確認
- コスト比較と予算調整
3印刷会社の選定
環境印刷に対応した印刷会社を選定します。ISO 14001やグリーンプリンティング認定などの環境認証取得状況を確認しましょう。
- 環境認証取得状況の確認
- 環境配慮型印刷設備の有無
- 過去の環境印刷実績
- 環境負荷データの提供可否
4効果測定と継続的改善
環境印刷の効果を測定し、継続的に改善していきます。定量的な指標を用いて効果を可視化し、社内外にアピールすることも重要です。
- CO2排出削減量の算定
- コスト削減効果の測定
- ステークホルダーへの情報開示
- 次期印刷物への改善点反映
環境印刷のコストと効果
コストへの影響
短期的なコスト増加要因
- 環境配慮型資材の価格プレミアム(5〜15%増)
- 環境認証取得・維持コスト
- 設備投資(水なし印刷機、LED-UV装置など)
- カーボンオフセット費用
中長期的なコスト削減要因
- 省エネ・省資源による光熱費削減
- 廃棄物処理費用の削減
- 炭素税などの環境税負担軽減
- 環境対応による新規顧客獲得
期待される効果
環境面の効果
- CO2排出量の削減(従来比10〜30%)
- VOC排出量の削減(従来比最大90%)
- 廃棄物発生量の削減
- 森林資源の持続可能な利用促進
ビジネス面の効果
- 環境意識の高い顧客からの評価向上
- ESG投資家からの評価向上
- 環境規制強化への先行対応
- 従業員の環境意識と満足度向上
- 企業ブランドイメージの向上
環境印刷の今後の動向
紙媒体とデジタル媒体の最適な組み合わせによる環境負荷低減が進んでいます。QRコードやARを活用したハイブリッド印刷物や、必要な部分だけを印刷するオンデマンド印刷などが普及しています。
石油由来原料に代わるバイオマス由来の印刷資材が進化しています。藻類由来のインキや食品廃棄物から作られる紙など、カーボンニュートラルな資材の開発・実用化が進んでいます。
印刷物の設計段階からリサイクル・リユースを考慮する「サーキュラーデザイン」の考え方が広がっています。分解・分別が容易な製本方法や、再生利用を前提とした素材選定が重要になっています。