今更きけない環境物流の基礎知識
環境に配慮した物流・輸送の基礎知識と実践方法を解説。CO2排出削減、モーダルシフト、共同配送など、物流のグリーン化に役立つ情報を提供します。
環境物流とは
環境物流(グリーンロジスティクス)とは、物流活動における環境負荷を低減するための取り組みの総称です。輸送、保管、荷役、包装などの物流プロセス全体で、CO2排出量や廃棄物の削減を目指します。
2025年の炭素税導入を控え、物流分野でも環境対応は経営課題となっています。本ページでは、今さら人には聞けない環境物流の基礎から最新動向までを解説します。
なぜ今、環境物流が重要なのか
運輸部門は日本の全CO2排出量の約20%を占めており、その大部分が物流活動によるものです。特にトラック輸送は、単位輸送量あたりのCO2排出量が鉄道の約7倍、船舶の約5倍と環境負荷が高くなっています。
2025年からの炭素税導入や、物流事業者へのCO2排出量報告義務化など、環境規制は年々厳しくなっています。また、EUでは国境炭素調整措置(CBAM)の導入も進んでおり、国際物流への影響も懸念されています。
ドライバー不足や高齢化、長時間労働など、物流業界は深刻な課題に直面しています。環境物流への転換は、これらの課題解決にも寄与します。例えば、モーダルシフトや共同配送は労働力不足の緩和にもつながります。
環境物流の技術と取り組み
輸送の効率化
共同配送
複数の荷主や物流事業者が協力して配送を行うことで、積載率の向上と車両台数の削減を実現します。同業種間だけでなく、異業種間での共同配送も増えています。
帰り荷の確保
片道だけ荷物を運ぶ「片荷輸送」を減らし、復路にも荷物を積載する「往復輸送」を増やすことで、空車走行を削減します。物流マッチングプラットフォームの活用も有効です。
最適ルート設計
AIやビッグデータを活用した配送ルートの最適化により、走行距離と燃料消費を削減します。リアルタイムの交通情報を反映した動的ルート設計も普及しています。
エコドライブ
急発進・急加速の抑制、アイドリングストップなど、環境に配慮した運転技術の普及により、燃料消費とCO2排出を削減します。運転データの可視化と教育が重要です。
環境物流の事例
競合関係にある食品メーカー5社が地域別に共同配送センターを設置し、配送を一元化。車両台数を40%削減し、CO2排出量を年間約5,000トン削減しました。
大手家電メーカーが九州-関東間の製品輸送をトラックから鉄道へシフト。専用31フィートコンテナを開発し、年間CO2排出量を約70%(3,000トン)削減しました。
自動車メーカーと部品メーカーが連携し、部品輸送の包装を使い捨てからリターナブル容器に転換。年間の廃棄物を200トン削減し、包装コストも30%低減しました。
環境物流の導入ステップ
1現状分析とCO2排出量の見える化
現在の物流活動におけるCO2排出量を算定し、「見える化」します。輸送モード別、拠点別、製品別など、多角的な分析が重要です。
- 物流活動の棚卸し(輸送量、輸送距離、使用車両など)
- CO2排出量の算定(国土交通省「物流CO2排出量算定ガイドライン」活用)
- 排出量の多い工程・区間の特定
- 改善ポテンシャルの評価
2目標設定と実行計画の策定
CO2排出削減目標を設定し、具体的な実行計画を策定します。短期・中期・長期の目標と、投資計画を含めた実行計画が必要です。
- 削減目標の設定(例:5年間で30%削減)
- 具体的な施策の選定(モーダルシフト、共同配送など)
- 投資計画と回収見通しの策定
- 社内外の協力体制の構築
3パートナーシップの構築
荷主、物流事業者、行政など、関係者との協力体制を構築します。単独では難しい取り組みも、パートナーシップにより実現可能になります。
- 物流事業者との環境目標の共有
- 同業他社との共同配送の検討
- サプライヤー・顧客との連携(納品頻度の適正化など)
- 行政・業界団体の支援制度活用
4実施と効果測定・改善
計画に基づいて施策を実施し、効果を測定・検証します。PDCAサイクルを回し、継続的な改善を図ることが重要です。
- 施策の段階的実施
- CO2排出量の定期的モニタリング
- 効果の検証と課題の特定
- 計画の見直しと新たな施策の検討
- 社内外への情報開示
環境物流のコストと効果
コストへの影響
短期的なコスト増加要因
- モーダルシフトの初期投資(専用コンテナ、荷役機器など)
- 環境配慮型車両への更新(EV、FCV、天然ガス車など)
- 物流システムの再構築コスト
- リターナブル容器の導入コスト
中長期的なコスト削減要因
- 燃料・エネルギーコストの削減
- 共同配送による物流コスト削減(10〜30%)
- 包装材コストの削減
- 炭素税などの環境税負担軽減
- 物流危機(ドライバー不足など)への対応
期待される効果
環境面の効果
- CO2排出量の削減(モーダルシフトで最大70%削減)
- 大気汚染物質(NOx、PM)の削減
- 騒音・振動の低減
- 廃棄物発生量の削減
- 資源消費の抑制
ビジネス面の効果
- 環境意識の高い顧客からの評価向上
- ESG投資家からの評価向上
- 環境規制強化への先行対応
- 物流危機(ドライバー不足など)への対応
- BCP(事業継続計画)の強化
- 企業ブランドイメージの向上
環境物流の今後の動向
2050年カーボンニュートラルに向けて、物流の脱炭素化が加速します。EVやFCV等のゼロエミッション車両の普及、再生可能エネルギーを活用した物流施設の増加、サプライチェーン全体でのCO2排出量管理が進みます。
IoT、AI、ブロックチェーンなどのデジタル技術を活用した環境物流が進化します。リアルタイムの車両位置情報や積載状況の把握、AIによる最適配車、ブロックチェーンによるCO2排出量の可視化と認証などが普及します。
車両、倉庫、人材などの物流リソースをシェアリングする動きが加速します。デジタルプラットフォームを介した空きトラックのマッチング、倉庫スペースのシェアリング、クラウドソーシング型配送などが拡大します。