スコープ3とは
スコープ3は、企業のバリューチェーン全体で発生する間接的な温室効果ガス(GHG)排出のうち、スコープ2に含まれない排出を指します。これには、原材料の調達、製品の輸送、販売した製品の使用、廃棄などが含まれます。
スコープ3は、多くの企業にとって全体の排出量の中で最も大きな割合(80%以上)を占めることが多く、企業の環境負荷を包括的に把握するために不可欠です。
スコープ3は15のカテゴリに分類され、それぞれのカテゴリごとに算定方法が定められています。
スコープ3の特徴
- バリューチェーン全体の排出を対象
- 15のカテゴリに分類
- 多くの企業で全体の80%以上を占める
- データ収集が難しい場合が多い
- 削減には他社との協働が必要
スコープ3の15カテゴリ
スコープ3は、上流(カテゴリ1〜8)と下流(カテゴリ9〜15)に分けられ、合計15のカテゴリで構成されています。
上流(カテゴリ1〜8)
カテゴリ | 内容 | 重要度 |
---|---|---|
カテゴリ1: 購入した製品・サービス | 原材料、部品、サービスの調達に伴う排出 | ★★★ |
カテゴリ2: 資本財 | 設備、建物などの資本財の製造に伴う排出 | ★★ |
カテゴリ3: 燃料・エネルギー関連活動 | スコープ1,2に含まれない燃料・エネルギーの調達に伴う排出 | ★ |
カテゴリ4: 輸送・配送(上流) | 調達物流、輸送、保管に伴う排出 | ★★ |
カテゴリ5: 事業から出る廃棄物 | 自社の事業活動から発生する廃棄物の処理・処分に伴う排出 | ★ |
カテゴリ6: 出張 | 従業員の出張に伴う排出 | ★ |
カテゴリ7: 通勤 | 従業員の通勤に伴う排出 | ★ |
カテゴリ8: リース資産(上流) | リースした資産の使用に伴う排出(スコープ1,2に含まれない場合) | ★ |
下流(カテゴリ9〜15)
カテゴリ | 内容 | 重要度 |
---|---|---|
カテゴリ9: 輸送・配送(下流) | 製品の輸送、保管、小売に伴う排出 | ★★ |
カテゴリ10: 販売した製品の加工 | 中間製品の加工に伴う排出 | ★ |
カテゴリ11: 販売した製品の使用 | 製品の使用に伴う排出 | ★★★ |
カテゴリ12: 販売した製品の廃棄 | 製品の廃棄・処理に伴う排出 | ★★ |
カテゴリ13: リース資産(下流) | 他社にリースした資産の使用に伴う排出 | ★ |
カテゴリ14: フランチャイズ | フランチャイズ加盟者の活動に伴う排出 | ★ |
カテゴリ15: 投資 | 投資活動に関連する排出 | ★ |
※重要度は一般的な目安であり、業種や事業内容によって異なります。★の数が多いほど重要度が高いことを示します。
主要カテゴリの算定方法
多くの企業で排出量の大部分を占める主要カテゴリについて、算定方法を解説します。
カテゴリ1: 購入した製品・サービス
原材料、部品、サービスの調達に伴う排出量を算定します。多くの企業でスコープ3排出量の40〜60%を占める重要なカテゴリです。
算定方法
以下の3つの方法があります:
- サプライヤー固有法:サプライヤーから実際のGHGデータを収集
- 平均データ法:調達量 × 排出原単位
- 金額ベース法:調達金額 × 排出原単位
計算例:金額ベース法の場合
紙の調達金額: 1,000万円
紙の排出原単位: 1.5 t-CO2/百万円
CO2排出量 = 1,000万円 ÷ 100万円 × 1.5 t-CO2/百万円 = 15 t-CO2
カテゴリ4: 輸送・配送(上流)
調達物流、輸送、保管に伴う排出量を算定します。物流業や製造業では重要なカテゴリとなります。
算定方法
以下の方法があります:
- 燃料法:燃料使用量 × 排出係数
- トンキロ法:輸送重量 × 輸送距離 × 排出原単位
計算例:トンキロ法の場合
輸送重量: 100トン
輸送距離: 500 km
トラック輸送の排出原単位: 0.139 kg-CO2/トンキロ
CO2排出量 = 100トン × 500 km × 0.139 kg-CO2/トンキロ = 6,950 kg-CO2 = 6.95 t-CO2
カテゴリ11: 販売した製品の使用
販売した製品の使用段階での排出量を算定します。家電メーカーや自動車メーカーなどでは、スコープ3排出量の80%以上を占めることもある最重要カテゴリです。
算定方法
以下の方法があります:
- 製品使用シナリオ法:販売台数 × 製品寿命 × 年間エネルギー消費量 × 排出係数
計算例:エアコンの場合
販売台数: 10,000台
製品寿命: 10年
年間電力消費量: 1,000 kWh/年
電力の排出係数: 0.470 kg-CO2/kWh
CO2排出量 = 10,000台 × 10年 × 1,000 kWh/年 × 0.470 kg-CO2/kWh = 47,000,000 kg-CO2 = 47,000 t-CO2
スコープ3の排出量削減対策
- サプライヤーエンゲージメントの強化
- 低炭素材料への切り替え
- 調達先の多様化と地産地消の推進
- 輸送効率の向上(積載率の改善)
- モーダルシフト(トラックから鉄道・船舶へ)
- 輸送距離の短縮(物流拠点の最適化)
- 製品の省エネ性能の向上
- 製品寿命の延長
- 低炭素製品へのシフト
- リサイクル可能な素材の使用
- 製品回収・リサイクルシステムの構築
- 廃棄物削減のための製品設計
スコープ3の算定における注意点
- 重要なカテゴリの特定
全15カテゴリを網羅的に算定するのではなく、自社にとって重要なカテゴリを特定し、優先的に取り組むことが重要です。
- データ収集の難しさ
サプライヤーや顧客からのデータ収集が難しい場合は、二次データや業界平均値を活用します。
- 二重計上の回避
複数のカテゴリ間や、スコープ1,2との間で排出量が二重計上されないよう注意が必要です。
- 算定方法の一貫性
経年比較ができるよう、算定方法を一貫させます。変更する場合は過去データも再計算します。
関連資料
スコープ3を含むサプライチェーン排出量の算定方法が詳しく解説されています。
公式サイトを見る各カテゴリのデータを入力するだけで、簡単にスコープ3排出量を算定できるExcelツールです。
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