スコープ1とは
スコープ1は、企業が所有または管理する排出源から直接排出される温室効果ガス(GHG)を指します。これは企業活動による直接的な排出であり、以下のような排出源が含まれます:
- 固定燃焼源(ボイラー、暖房設備、発電機など)での燃料燃焼
- 移動燃焼源(社有車、フォークリフトなど)での燃料燃焼
- 工業プロセスからの排出(セメント製造、化学反応など)
- 冷媒などの漏洩による排出(エアコン、冷蔵設備など)
スコープ1は企業が直接コントロールできる排出源であるため、削減対策を立てやすく、多くの企業が最初に取り組む領域です。
スコープ1の特徴
- 企業が直接管理・制御できる排出源
- 比較的データ収集が容易
- 削減対策の効果が直接見える
- 温対法の報告対象
- 多くの企業で全体の10〜20%程度を占める
スコープ1の算定方法
スコープ1の排出量は、基本的に「活動量 × 排出係数」で計算します。環境省が公表している「温室効果ガス排出量算定・報告マニュアル」に基づいた算定方法を解説します。
基本計算式
CO2排出量(t-CO2) = 活動量 × 排出係数
1. 固定燃焼源からの排出
ボイラーや発電機などの固定設備での燃料燃焼による排出です。
燃料種類 | 活動量の単位 | 排出係数(kg-CO2/単位) |
---|---|---|
灯油 | L(リットル) | 2.49 |
A重油 | L(リットル) | 2.71 |
LPG | kg(キログラム) | 3.00 |
都市ガス | m³(立方メートル) | 2.23 |
計算例:灯油ボイラーの場合
年間灯油使用量: 10,000 L
排出係数: 2.49 kg-CO2/L
CO2排出量 = 10,000 L × 2.49 kg-CO2/L = 24,900 kg-CO2 = 24.9 t-CO2
2. 移動燃焼源からの排出
社有車やフォークリフトなどの移動設備での燃料燃焼による排出です。
燃料種類 | 活動量の単位 | 排出係数(kg-CO2/単位) |
---|---|---|
ガソリン | L(リットル) | 2.32 |
軽油 | L(リットル) | 2.58 |
LPG | kg(キログラム) | 3.00 |
計算例:社有車(ガソリン車)の場合
年間ガソリン使用量: 5,000 L
排出係数: 2.32 kg-CO2/L
CO2排出量 = 5,000 L × 2.32 kg-CO2/L = 11,600 kg-CO2 = 11.6 t-CO2
3. 工業プロセスからの排出
製造プロセスにおける化学反応などによる排出です。業種によって大きく異なります。
例:セメント製造、石灰石の焼成、アンモニア製造など
工業プロセスからの排出は、各プロセスに特有の計算方法があります。環境省のガイドラインを参照するか、専門家に相談することをお勧めします。
4. 冷媒などの漏洩による排出
エアコンや冷蔵設備などの冷媒ガスの漏洩による排出です。
冷媒ガスは種類によって地球温暖化係数(GWP)が大きく異なります。漏洩量に各冷媒のGWP値を乗じてCO2換算します。
冷媒種類 | 地球温暖化係数(GWP) |
---|---|
HFC-134a | 1,430 |
HFC-32 | 675 |
HFC-410A | 2,088 |
計算例:エアコン冷媒(HFC-134a)の漏洩の場合
年間漏洩量: 2 kg
HFC-134aのGWP: 1,430
CO2排出量 = 2 kg × 1,430 = 2,860 kg-CO2e = 2.86 t-CO2e
スコープ1の排出量削減対策
- 高効率ボイラーへの更新
- 断熱性能の向上
- 熱回収システムの導入
- 重油から都市ガスへの転換
- バイオマス燃料の導入
- 水素エネルギーの活用
- 電気自動車(EV)の導入
- ハイブリッド車の導入
- エコドライブの推進
- 定期的な漏洩検査
- 低GWP冷媒への転換
- 適切な廃棄・回収の実施
スコープ1の算定における注意点
- バウンダリ(境界)の設定
自社が所有・管理する排出源を明確に定義し、算定範囲を決定します。
- データの収集方法
燃料使用量などのデータを正確に収集・管理する仕組みを構築します。
- 排出係数の選択
環境省が公表している最新の排出係数を使用します。
- 算定方法の一貫性
経年比較ができるよう、算定方法を一貫させます。変更する場合は過去データも再計算します。
関連資料
温室効果ガス排出量の算定方法や排出係数、報告様式などが詳しく解説されています。
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